
心療内科 医長 深井 善光
概要
対象となる疾患
摂食障害 |
(拒食症やうつ状態に伴う食欲低、飲み込むことへの不安、機能性嘔吐症など) |
心身症 |
(頭痛、めまい・立ちくらみ、腹痛、過呼吸、頻尿) |
転換性障害 |
(検査で異常が無いのに持続する痛み、力が入らない、見えないなど) |
心療内科では上記の様に、摂食障害、心身症、転換性障害など、「心の負担が身体の症状に表現されている症状」を診療しています。『身体の症状があるにもかかわらず、診察や検査により身体的な原因が特定できない』場合、“自律神経を介した身体症状”や“無意識を介した身体症状”の可能性があります。身体的な治療を行っても症状が持続的で強く、日常生活に支障がある場合は、身体的な治療だけでなく、本人の心理的面接やご家族の関わり方の振り返り、家庭や学校などの環境調整など多方面からアプローチが必要となります。そして、単に症状を除去することだけを目的とせず、症状に託された心の奥のからのメッセージを共に考えていきます。心の成長・変化が達成されることで、症状が必要なくなり再発しないことを目指しています。
初診・再診について
診察と面接は初診・再診共に完全予約制です。お一人あたりに時間をかける治療をするため、初診までは4〜5週間お待ちいただくことをご了承ください。初診までの間は紹介医での治療を継続してください。なお、初診予約の電話では医師が直接症状を伺い、緊急性を判断しています。
摂食障害などやせが高度で緊急性が高い場合、1、2週で診察できるように努めています。
(摂食障害では水・木の午前で初診4時間、再診2時間の面接を要します)
心身症や転換性障害では、初診が火曜(午前)、再診は月(午後)、金曜(午前)です。
その他、精神分析的な面接を要する「分析外来」(50分)は水・木・金の午後です
心療内科の外来予定
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月 |
火 |
水 |
木 |
金 |
午前 |
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初診 |
摂食障害
初診・再診 |
摂食障害
初診・再診 |
再診 |
午後 |
再診 |
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分析外来 |
分析外来 |
分析外来 |
印刷が可能ならば、心療内科専用の問診票などをあらかじめご記入ください。
無意識とは
心療内科では精神分析的な考え方に基づいて症状を理解しようと努めています。
「人には自分でも気付いていない“無意識”が存在し、判断や行動決定に大きな影響力を持つ」と考えます。脳の中では“自分で意識できる気持ちや考え”の断片(未完成の試作品や部品)がたくさん生じています。つまり、“自分で気づいている考えや気持ち”(意識できる悩み)は氷山の一角であり、“本人が気づくことができない考えや気持ち”(無意識にある混沌とした生き辛さ)”が水面下に渦巻いています。 意識上と意識下(無意識)の境は自分では調整できないため、無意識にある“生き辛さ、行き詰まり”は自分では話すことも悩むこともできず、行き場を求めて身体症状に現されるのです。
図のように、意識の水面の上に出ている部分である“意識上”は北向き(例:学校に行かなければならない)と思っていても、水面下の“無意識”は温かい南向きの海流(例:学校が何故か疲れる)により南に向かいます。
診療内容
摂食障害
摂食障害の原因
摂食障害の発症には遺伝的性質(性格、能力)、心理発達の停滞、家族関係、友人関係、社会情勢などが種々の割合で混在しており、ひとつの原因では説明できません。また、子どもの摂食障害では、約半数が意図的なダイエットをしていないのに発症しており、ダイエットが原因とは言えません。当科では摂食障害を本来の問題(心理的発達課題や主体性の確立、人との信頼感の獲得など)から自分自身も目をそらすためのすり替え症状だと考えています。本当の問題への取り組みには時間と困難を伴いますが、減量の達成感は容易に得られます。これに対して、家族や治療者が“食行動を是正させようとすること”(食べさせること)はダミー症状に巻き込まれて出口のない迷宮に迷い込むことになります。したがって、心療内科では体重増加を目的とせず、患者・家族が抱えているが気付いていない問題に取り組むお手伝い(定常体重療法)を行っています。
摂食障害の治療について
身体疾患や精神疾患について国際的に評価が高い治療ガイドラインとして、イギリスの国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインがあります。その中にも神経性やせ症について決定打となる治療法は確立されていませんが、以下が推奨されています。
NICEのガイドラインの抜粋
『神経性やせ症の心理療法として考慮されるべきは、認知的分析的療法、認知行動療法、対人関係療法、焦点付力動的精神療法、摂食障害に明確に焦点を当てた家族介入などである』
『神経性やせ症患者のほとんどは身体的モニタリングを伴った心理療法を、その技術があり摂食障害の身体的リスクを評価できる医療者が提供することにより外来で治療されるべきである』
『神経性やせ症の患者において、外来での心理療法の経過中、明らかな悪化がみられたり、あるいは、外来での心理治療を適切な期間提供し完了したにも関わらず、大きな改善が見られない場合は「より集中的な次のレベルの治療」(入院治療など)を考慮するべきである』
『児童・思春期の摂食障害患者については、摂食障害について直接働きかける家族介入が提供されるべきである』
当院の心療内科では心理療法の訓練を受けた小児科医が身体面の危険管理を行いつつ、同時に力動的精神療法(精神分析的な精神療法)の考え方に基づいて、本人の心理面接と親ガイダンスを行うことで家族ぐるみで成長・変化し、結果的に症状が不要となることを目指しています。
当科で行っている摂食障害の治療:定常体重療法
定常体重療法は心理的な成長・変化に重点を置いています。これは一般的な治療である“体重増加を目的とした治療”(行動療法など)で改善しない患者さんや再発した患者さんに対する治療を通じてたどりついた治療法です。入院当初は食事の配膳を停止し、高カロリー輸液療法により体重をほぼ一定に保ち、生命の危機状態(脱水、肝障害など)から脱出します。体重を一定に保つことで、患者も家族も『食べる・食べない』というすり替えられた症状から離れ、潜在的に抱えている心理的問題に取り組めるように導きます。本人とご家族が成長・変化するために週1回の診察、面接、親ガイダンスが必要となります。初診後に詳しい治療内容をお聞きいただいた上で、どこで治療するかをお選びください。
痩せていく場合の入院基準:
外来通院は原則として毎週必要ですが、以下の条件により入院治療も選択されます。
やせの重症度 |
体重と体重減少速度による入院基準 |
軽症 |
標準体重の75%以上だが、直近の8週間に8kgの体重減少 |
中等症 |
標準体重の65%以上75%未満、 かつ、直近の4週間に4kgの体重減少 |
重症 |
標準体重の55%以上65%未満の場合、早期の入院が必要 |
超重症 |
標準体重の55%未満の場合は緊急入院が必要 |
上記の体重以外に、肝機能や筋崩壊の程度、低血糖、意識障害、歩行困難、強い倦怠感などがあれば入院の適応となります |
(小児心身医学会ガイドライン2015年版を一部改編)
性別、年齢別、身長別の標準体重:(2000年の学校保健統計調査に基づく村田の計算式)
摂食障害の病型分類
摂食障害には神経性やせ症(神経性食思不振症、拒食症)以外に以下の疾患が含まれています。
1 |
神経性やせ症(制限型) |
痩せる目的のために食べない
(いわゆる拒食症で小児期の半数を占める) |
2 |
神経性やせ症
(むちゃ食い/排出型) |
痩せる目的で嘔吐や下剤を乱用する
(制限型から始まって、数年後に移行する) |
3 |
食物回避性情緒障害 |
痩せる目的はないが、食べたくない
(小児の摂食障害では半分でやせ願望はない) |
4 |
うつに伴う食欲不振 |
食欲以外の意欲も低下し、抑うつ状態 |
5 |
機能性嚥下障害
(嘔吐恐怖症) |
食事が喉に詰まる事を恐れて食べない
(嘔吐や窒息への不安、咽頭の違和感) |
6 |
機能性嘔吐症 |
意図的ではなく、吐いてしまう
(胃食道逆流の体質と心理的なストレス) |
7 |
選択的摂食 |
数品目の食品しか食べない高度の偏食 |
8 |
制限摂食 |
偏食はないが、量が非常に少ない |
9 |
食物拒否 |
特定の状況や相手とは食べない |
10 |
広汎性拒絶症候群 |
食べる、歩く、話すなど広汎な拒絶 |
11 |
神経性過食症 |
食欲が止まらず、食後に後悔し興奮する
(いわゆる過食症) |
12 |
むちゃ食い障害 |
常にではなく、時に単発で過食する |
13 |
異食症 |
砂や紙など食品以外の物を食べる |
14 |
反芻性障害 |
胃から口内に吐き戻して、また飲み込む |
摂食障害の精神病理のタイプ分類
小児心身医学会の摂食障害に関する研究班では精神病理を8つに分けて考えています。それぞれのタイプで適切な治療方法や診療科が異なります。
|
タイプ |
特徴 |
1 |
強迫群 |
頑張り屋で周囲の評判も良い優等生にみられる
挫折体験は少ないがんばり病タイプ |
2 |
自閉症スペクトラム群 |
幼児期からこだわりが強く、人付き合いが不得意で場の雰囲気が読みにくい |
3 |
気分障害群 |
抑うつ気分や不安に伴い食欲が低下する
自分でも判らない何らかの行き詰まり感がある |
4 |
恐怖症群 |
食物がのどに詰まる怖さ、窒息する怖さで食べにくい。一口を長い時間噛んで食べる |
5 |
身体愁訴群 |
嘔気、腹痛、便秘などへのよき不安から摂食量を意図的に加減する |
6 |
統合失調症群 |
食事に関するこだわりや妄想(毒、放射能など)があるために摂取量が少なくなる |
7 |
演技性パーソナリティ群 |
過度な感情表出や、拒食のアピールにより周囲の注意を引こうとするが、痩せの度合いは軽度 |
8 |
境界型パーソナリティ群 |
対人関係や感情などが衝動的に不安定に変動
小児では診断に当てはまるケースはごく稀 |
心身症
心身症とは心の負担が自律神経の調子を乱すことにより身体に症状がでる状態の総称です。心と身体は自律神経を介して互いに影響しあっています(心身相関)。通常の検査では異常がないにもかかわらず、症状のために生活に支障を来たしている場合は治療をお勧めします。診察(面接)の他に自律神経を調整する薬や心身をリラックスさせるための生活を共に考えていきます。
・起立性調節障害 |
頭痛、めまい・立ちくらみ、倦怠感(ほとんど毎日) |
・片頭痛 |
頭の片側、または、両側の激しい痛み(月に5回以下) |
・緊張型頭痛 |
肩や首、頭の周辺の筋肉が緊張することで起こる頭痛 |
・過敏性腸症候群 |
反復する腹痛、便秘または下痢 |
・慢性胃炎 |
吐き気・嘔吐、食欲不振、腹痛、少し食べただけでお腹が張る |
・過換気症候群 |
呼吸が速くなり息が苦しくなる、手がしびれる |
・心因性頻尿 |
膀胱炎ではないのに、何度もトイレに行く |
自律神経失調症と心身症の違いは「心身相関が有るか、無いか」とお考えください。
自律神経失調症
自律神経の不調→身体症状 |
心身相関は乏しい |
心身症
心の疲れを無自覚、または、我慢しすぎる
→自律神経の不調→身体症状 |
心身相関がある |
身体症状のある不登校(身体症状により登校が困難なもの)
身体症状を理由に当科を受診する患者さんの6割は不登校傾向となっています。不登校はいじめや学業不振、家庭不和などはっきりしたストレスが無くても、思春期の心理発達の過程で起こり得ます。すべての子どもが親からの独立と依存の間で揺れ動き、同世代の仲間関係の困難さを体験します。心と身体は自律神経や無意識を通じて相互に影響(心身相関)しあっており、思春期の心理発達課題をうまく乗り越えられない場合に発症します。このように心と身体にまたがった症状は小児科でも精神科でも対応が困難となります。当科の医師は小児科の研修と精神療法の訓練を行うことで、心身両面からのアプローチを行います。
身体症状の乏しい不登校
身体症状が無く「学校に行きたくない」気持ちがはっきりある場合や、身体症状が有っても不登校の主な原因ではない場合、児童精神科の受診をお勧めします。
転換性障害(変換症)と解離性障害
診察や検査により身体疾患の可能性が極めて低いのに身体症状や意識障害があるもので、
ストレス状況がその人の対応能力を大きく上回った場合、無意識に運動神経や知覚神経に不調を来たします。発症状況や経過、家庭や学校の環境、本人の特性などから症状の意味を考えていくことが治療につながります。
転換性障害 |
無意識に存在する負担 → 運動神経・知覚神経
手足の痛みや麻痺・脱力、けいれん
視覚障害(見えない、小さく見える、歪んで見える
治療しても軽快しない腹痛や頭痛 |
解離性障害 |
無意識に存在する負担 → 意識障害、記憶障害
意識を失う、意識がもうろうとする
記憶がなくなる、別の人格がでてくる |
医療関係者の方へ
高度のやせを伴う摂食障害につきましては緊急で対応させていただきますので、連携担当医(深井)までお電話ください。
心療内科では初診に4時間かけて、身体診察と検査、親子別々、および同席面接を行います。そのため、本人と両親(ひとり親家庭の場合は親権者)で受診できるようにご家族と日程調整を行いできるだけ1週間以内に予約をおとりするように努力いたします。
検査で明らかな異常が認められない身体症状につきましては紹介状を患者さんにお渡しいただくだけで結構です。心療内科の初診予約では医師が直接ご家族から状況を伺って予約をお取りしています。その際、緊急性の判断と院内他科の受診がより適切な場合はそちらの予約に振り替えさせていただくためです。摂食障害以外の症状では初診まで3〜5週間お持ちいただくこととなるため、初診までは現在の治療をご継続ください。