
臨床遺伝科 部長 吉橋 博史
概要
先天性・遺伝性疾患の診療を担当する小児遺伝診療部門です。遺伝情報(染色体や遺伝子など)に起きた変化の多くはその人の個性にかかわるものですが、ときに病気をもたらすことがあります。私たちは、そのような疾患をもつ方に加え、疾患の原因がわからない方に対する遺伝学的診断や健康管理、家系内や次の妊娠時における遺伝性の相談などをおこなっています。ご本人やご家族が抱える遺伝に対する心配や不安、心理社会的問題への支援にも努めています。わかりにくい遺伝の話をわかりやすく「つたわる遺伝医療」と、想定外の出来事に対するご家族の心的負担の軽減「ささえる遺伝医療」に重点をおいた診療を心掛けています。
先天性疾患は出生新生児の3-5%(20−30人に1人)にみられます。その原因は様々で、染色体や遺伝子などの遺伝情報の変化が発症要因となる)場合(染色体疾患、単一遺伝子疾患など)と、遺伝情報の変化が発症要因として弱いか無関係な場合(多因子疾患、曝露因子など)、に大別されます。先天性疾患のすべてが遺伝によるものというわけではない、という点が重要です。
先天性・遺伝性疾患の診断には、「体質」を診断するという側面があります。「体質」を知ることで、これからの子育てや健康管理に役立てられる具体的な情報が得られることがあります。「体質」があることで併発しやすい「病気」を知ることが出来れば、予防的な健康管理や治療につながる可能性もあります。その一方で、「体質」そのものについては治療対象となりにくく、その「体質」には生涯向き合ってゆく必要のある特徴や症状が含まれているかもしれません。私たちは診断後も、健康と生活の質を保ち地域社会で安心して過ごしていただくために、総合・専門診療科、子ども家族支援部門との協働を通じて、医療や福祉に関わる有用な情報を提供できればと考えています。
お子さんの「からだ」のマネージメントと共に、ご家族の「こころ」のケアも、安定した子育てには欠かせません。こころ診療部門とも連携し、こころ専門医の協力や助言を得ながら、ご家族の状況に応じたメンタルヘルス・ケアもおこなっています。私たちは、「からだ」と「こころ」を等価に考える遺伝医療をめざしています。
診療内容
家族歴、診察所見、遺伝学的解析を含めた各種検査を総合的に検討し、正確な診断をめざします。診断後は、疾患の自然歴や併発症を考慮しながら、定期的な健康管理、早期発見、治療につながるよう、総合・専門診療科との連携を図っています。お子さんの発達段階に応じて、療育施設を紹介させていただく場合もあります。主に小児疾患を対象としておりますが、周産期疾患、成人期疾患、家族性腫瘍など、様々なライフステージにおいて遺伝医療と関連する疾患についても、ご本人、ご家系に関わる遺伝的問題のご相談をお受けしています。
1.遺伝診療
先天性・遺伝性疾患(染色体疾患、単一遺伝子疾患、骨系統疾患、多発形態異常、原因不明等)をもつ方へ専門医療を提供しています。診断は、見通しのある子育て、先回りの健康管理、将来の家族計画を考えるときの有力な根拠となります。医師の診たてや、家族歴・各種検査結果に基づく臨床診断は、いくつかの状況証拠を組み合わせて検討されます。ある程度時間をかけて、お子さんの成長と共に変化する体つきや併発症の有無を評価することも、診断を考える上で重要な意味をもつことがあります。一方、染色体や遺伝子などの遺伝情報の変化が疾患の発症要因と考えられている疾患が疑われた場合や、診察をしても想定される臨床診断が無い場合は、遺伝学的検査による遺伝学的診断を提案することがあります。お子さんそれぞれの成長や育ちを見守りつつ、客観的な検査の結果も参考に、総合的に正確な診断をめざすことが大切です。
遺伝学的検査を提案された場合でも、すぐに検査を受ける必要はありません。遺伝情報は、生涯変わることのない不変性、血縁者とも関連し得る共有性、疾患発症を想定させる予測性などの特性をもつため、遺伝情報を知るための検査を実施する場合は、事前の十分な情報の整理が必要となります。
対象疾患:先天性・遺伝性疾患全般。単発の形態異常(口唇口蓋裂、先天性心疾患、指趾異常など)、染色体疾患、多発形態異常症候群、骨系統疾患、先天難聴、遺伝性不整脈、家族性腫瘍などを含みます。当科では、多くの診療科やご家族から、疾患の遺伝学的問題に関する様々なご相談をお受けしております。
一定の条件を満たしていれば、未診断疾患イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases :IRUD[アイラッド])による診断アプローチも検討しています。当院は、日本医療研究開発機構(AMED)の難病克服プロジェクトにおけるIRUD拠点施設としての役割を担っています。院内診療科および地域医療機関との連携を積極的に図り、未診断症例の診断、遺伝医療の啓発と人材育成、遺伝カウンセリング体制の拡充など、診療に役立つ社会還元型の仕組みづくりの推進をめざしています。複数の部位や臓器に症状を認めること、血縁者や同胞に同じ病状を認めることなどが解析の必須条件となりますが、従来法では診断に至らなかった小児・成人の方々の3割程度で確定診断に至っています。
1「IRUDコンサルトシート記入に関するご案内」(PDF:666KB)
2「IRUDコンサルトシート_都立小児版」(EXCEL:30KB)
3「記入例:コンサルトシート_都立小児版」(PDF:612KB)
4「記入例:診療情報提供書_都立小児版」(PDF:541KB)
関連するホームページ:IRUD未診断疾患イニシアチブ http://irud.umin.jp/
2.遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングの様子
遺伝医療に特徴的な診療の一つに、遺伝カウンセリングがあります。遺伝カウンセリングは、おもにご自身や家系内の遺伝に関するあらゆる諸問題について、どうして?なぜ?と思っておられる方、具体的な遺伝関連情報を得たいと考えられている方などが対象となります。相談内容に対して、ご本人やご家族が置かれた状況やお気持ちを確認させて頂き、時間をかけた対話を通じて必要とされている医療情報や最新の遺伝学的知見、生活上の問題に沿った療育・子育て情報を提供しています。意思決定に悩む場面では、その人らしい生活や将来設計をご自身で描くことができるよう、遺伝学的、心理的な側面からサポートします。遺伝カウンセリングへの来談のきっかけとしては、地域のクリニックや当院診療科からのご紹介のほか、ご本人やご家族が当科ホームページをご覧になってからのお電話など様々です。以下、遺伝カウンセリングの相談例を示します。
相談例1
「子どもが遺伝する病気をもっていると伝えられ、説明を受けたのですが、気も動転していてよくわかりませんでした。次の妊娠も考えていたので、同じことを繰り返す可能性について気になります。」
→病気や体質がご家族に遺伝するのかどうかについてのご相談では、家系内の健康状態や診断経緯を確認させていただいております。疑われている疾患や、実施された遺伝学的検査があれば結果なども参考に、診断を検討します。そのうえで、どのような遺伝的問題が考えられるのか、次回妊娠時までにはどのような情報を整理しておく必要があるのかなどを一緒に考えさせていただきます。
相談例2
「私には生来体つきの特徴があるのですが、将来、結婚をして家庭を築きたいと思っています。両親には相談しづらくて何も聞けていません。子どもに遺伝する可能性や何か調べられる検査があれば教えて欲しいです。」
→結婚や出産のようなライフイベントでは、家族内の遺伝的問題を見つめ直す機会の一つになることがあります。遺伝学的検査ですべてが明らかになるわけではありませんが、ご自身が心配や不安を感じていらっしゃる部分を具体的にお聞かせいただき、最新の検査事情をもとに情報を整理させていただきます。
相談例3
「おなかの赤ちゃんについて出生前遺伝学的検査を受けたら、染色体に違いがみられる、と言われました。家族として迎え入れるにあたり、生まれてからどのようなことに注意したらよいのか知りたいと思っています。」
→当科では出生前遺伝学的検査は実施しておりません。その代り、隣接する多摩総合医療センター産婦人科と連携し、おなかの赤ちゃんの状態をご家族が想像しやすいよう、小児科の立場から標準的な疾患情報を共有させていただいております。疾患に関する実際的な情報と共に、お子さんそれぞれがもつ個人差にも目を向けた説明を心掛けています。妊娠する前の備えとして、出生前遺伝学的検査の考え方を知りたい方、高年妊娠を心配されている方などへの対応もおこなっておりますので、ご相談ください。
遺伝カウンセリングの予約方法
- 連絡先:042-300-5111(病院代表)
- 遺伝カウンセリング窓口:認定遺伝カウンセラー 伊藤志帆(内線5433)
- お聞きすること:相談されたいこと、疾患のお名前、家族や血縁者の健康状態、必要に応じて検査結果など
- 相談内容、緊急性などを検討し、適切な時期で予約枠を確保します。相談内容が遺伝カウンセリングに適しているか判断が難しい場合でも、お気軽にお問い合わせ下さい。
遺伝カウンセリング外来パンフレット(既存)(PDF:4.55MB)
当科が遺伝診療/遺伝カウンセリングで対応してきた主な疾患表(新規)(EXCEL:15KB)
また先天性・遺伝性疾患は比較的少ないことから、症例数の多い小児専門病院が果たすことのできる支援形態の一つとして、ピアサポート(peer support)も実施しています。当科に受診の方を中心にご家族の希望に応じて、同じ疾患をもつお子さんを育て、共通の課題に直面されているご家族同志が少数単位から語らうためのお手伝いをしています。ご希望の方は、遺伝カウンセリング窓口よりお問い合わせ下さい。
医療機関の先生方へ
「家族の成り立ちをささえる遺伝医療」をめざし、遺伝科スタッフが協力して、遺伝医療情報と心理社会的支援を提供してまいります。先天性・遺伝性疾患について知りたいことが明確となっており、当科に受診される意思をおもちの方や、そのご家族が対象です。一度に多数の診療科にまたがる健康管理や治療の必要性が想定される場合は、医療連携室からのご紹介をご検討ください。特別な事情がある場合は、初診枠以外で対応を検討しますのでご連絡下さい。
また、当院は臨床遺伝専門医制度・認定研修施設であり、多くの方々が遺伝医療の研鑽に励んでおられます。遺伝医療に興味や関心をおもちで、臨床遺伝科での短期研修(1カ月間から可)を希望される方につきましても、お気軽にご相談下さい。
連絡先:042-300-5111(代表)吉橋博史(内線5122)
遺伝医療の研修者数(2010-2020)
関連学会
日本人類遺伝学会:http://jshg.jp/
日本小児遺伝学会:http://plaza.umin.ac.jp/p-genet/
日本遺伝カウンセリング学会:http://www.jsgc.jp/
業績
業績(PDF:874KB)
臨床遺伝センター
遺伝カウンセリング外来
遺伝カウンセリングの様子
遺伝医療に特徴的な診療の一つに、遺伝カウンセリングがあります。遺伝カウンセリングは、おもにご自身や家系内の遺伝に関するあらゆる諸問題について、どうして?なぜ?と思っておられる方、具体的な遺伝関連情報を得たいと考えられている方などが対象となります。相談内容に対して、ご本人やご家族が置かれた状況やお気持ちを確認させて頂き、時間をかけた対話を通じて必要とされている医療情報や最新の遺伝学的知見、生活上の問題に沿った療育・子育て情報を提供しています。意思決定に悩む場面では、その人らしい生活や将来設計をご自身で描くことができるよう、遺伝学的、心理的な側面からサポートします。遺伝カウンセリングへの来談のきっかけとしては、地域のクリニックや当院診療科からのご紹介のほか、ご本人やご家族が当科ホームページをご覧になってからのお電話など様々です。以下、遺伝カウンセリングの相談例を示します。
相談例1
「子どもが遺伝する病気をもっていると伝えられ、説明を受けたのですが、気も動転していてよくわかりませんでした。次の妊娠も考えていたので、同じことを繰り返す可能性について気になります。」
→病気や体質がご家族に遺伝するのかどうかについてのご相談では、家系内の健康状態や診断経緯を確認させていただいております。疑われている疾患や、実施された遺伝学的検査があれば結果なども参考に、診断を検討します。そのうえで、どのような遺伝的問題が考えられるのか、次回妊娠時までにはどのような情報を整理しておく必要があるのかなどを一緒に考えさせていただきます。
相談例2
「私には生来体つきの特徴があるのですが、将来、結婚をして家庭を築きたいと思っています。両親には相談しづらくて何も聞けていません。子どもに遺伝する可能性や何か調べられる検査があれば教えて欲しいです。」
→結婚や出産のようなライフイベントでは、家族内の遺伝的問題を見つめ直す機会の一つになることがあります。遺伝学的検査ですべてが明らかになるわけではありませんが、ご自身が心配や不安を感じていらっしゃる部分を具体的にお聞かせいただき、最新の検査事情をもとに情報を整理させていただきます。
相談例3
「おなかの赤ちゃんについて出生前遺伝学的検査を受けたら、染色体に違いがみられる、と言われました。家族として迎え入れるにあたり、生まれてからどのようなことに注意したらよいのか知りたいと思っています。」
→当科では出生前遺伝学的検査は実施しておりません。その代り、隣接する多摩総合医療センター産婦人科と連携し、おなかの赤ちゃんの状態をご家族が想像しやすいよう、小児科の立場から標準的な疾患情報を共有させていただいております。疾患に関する実際的な情報と共に、お子さんそれぞれがもつ個人差にも目を向けた説明を心掛けています。妊娠する前の備えとして、出生前遺伝学的検査の考え方を知りたい方、高年妊娠を心配されている方などへの対応もおこなっておりますので、ご相談ください。
遺伝カウンセリング外来予約方法
完全予約制になります。
1回約1時間枠をご用意し、遺伝に関するご相談に十分な時間をかけて対応しております。
・当院他科へ受診中の方
担当医師にご相談、もしくは来院時にうりぼうカウンターにて「遺伝カウンセリング希望」の旨をお伝えください。認定遺伝カウンセラーが相談内容の詳細をお伺いし、予約の調整をお手伝いします。
・院外より受診希望の方
遺伝カウンセリング窓口:042-300-5111(病院代表)
「遺伝カウンセリング外来の予約希望」の旨をお伝えください。認定遺伝カウンセラーが引き継ぎ対応します。
予約時にお伺いすること:
- 相談されたいこと、疾患のお名前、家族や血縁者の健康状態、必要に応じて検査結果など
- 相談内容、緊急性などを検討し、適切な時期で予約枠を確保します。
相談内容が遺伝カウンセリングに適しているか判断が難しい場合でも、お気軽にお問い合わせ下さい。
遺伝カウンセリング外来パンフレット(PDF:4.55MB)
主な臨床研究
主な臨床研究
・未診断疾患イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases :IRUD[アイラッド])
IRUDは、診断がつかずに悩んでいる患者さんを対象に、人の設計図である遺伝子やDNAなどを幅広く調べることにより、診断につなげること、またあらなた疾患を診断することを目的としています。
当院は、日本医療研究開発機構(AMED)の難病克服プロジェクトにおけるIRUD拠点施設としての役割を担っています。
院内診療科および地域医療機関との連携を積極的に図り、未診断症例の診断、遺伝医療の啓発と人材育成、遺伝カウンセリング体制の拡充など、診療に役立つ社会還元型の仕組みづくりの推進をめざしています。
複数の部位や臓器に症状を認めること、血縁者や同胞に同じ病状を認めることなど一定の条件を満たしていれば、IRUDによる診断アプローチも検討しています。
従来法では診断に至らなかった小児・成人の方々の4割程度で確定診断に至っています。
1「IRUDコンサルトシート記入に関するご案内」(PDF:666KB)
2「IRUDコンサルトシート_都立小児版」(EXCEL:30KB)
3「記入例:コンサルトシート_都立小児版」(PDF:612KB)
4「記入例:診療情報提供書_都立小児版」(PDF:541KB)
・WEBピア
網羅的ゲノム解析の進歩により、様々な症状を持つ患者さんに対し遺伝子の検査から診断が行われるようになってきています。
遺伝子からの診断は、『健康管理に活かすことができる』、『家系内遺伝情報の整理(次子再発率など)を可能にする』など、臨床遺伝医療の基盤となります。
一方、遺伝子の違いによる遺伝性疾患の多くは極めて希少な疾患(以下、希少疾患)となり、希少疾患における課題があります。希少疾患では患者さん・情報が少ないため、『簡単に検索できる疾患関連情報が少ない』『同じ課題を持った家族との交流:ピアサポートが困難』という特徴があります。
このような希少疾患診療の背景から、当科では患者さん、ご家族と協働してよりよい支援の体制を作り上げることを目標に、臨床研究を行っております。
当科に通院中で遺伝子検査により診断が確定された方にお声がけさせていただき、『●●●:当科通院中の希少疾患を持つ方のデータベース』作成を目指します。
他院通院中の方でも、情報を知りたいなどご希望がありましたら、ご相談ください。
・BIRTHDAY
新生児から生後6ヶ月までの赤ちゃんを対象とした網羅的ゲノム解析による生後早期診断を目的とするプロジェクトです。
当院総合周産期センターにて入院加療中の方が対象となります。
・先天難聴